2011年12月31日土曜日

阿部薫 / "Overhang Party"



若くして亡くなったアーティストは、死後神格化されることが多い。死ぬことによって伝説が完成されるのだろう。
阿部薫も当然そうなった。謎めいた言葉や語り草になったエピソードは山のように紹介されている。伝説の大安売りなわけだ。
そういう話を知ってからレコードを聴くと勝手な先入観で、いいと思っていなくても素晴らしいとか思い込んでしまうのだから厄介なのだ。
だが、それを差し引いても、阿部薫のアルトはすさまじい。

2011年11月26日土曜日

ズビグニエフ・ナミスウォフスキ・カルテット / "Polish Jazz"

Zbigniew Namyslowski⇒ズビグニエフ・ナミスウォフスキ
この読み方でいいのか・・・?まあカタカナの限界だろう。




日本ではマイナーどころか欧州ジャズ・マニアしか知らないのではないかという、
ポーランドのパーカー派アルト奏者である。

ソ連のジャズを探していて偶然見つけたのだが、これが大層かっこいいもので物凄く得した気分になってしまった。

鳴りきった「これぞアルト!」という音色で吹きまくるのだが、フレーズにはパーカーのイディオムはあまり登場せず、曲もバップとは異なる。
ポーランド人たるアイデンティティから来る独特さなのか知らんが、美しくも変な曲が満載でまったく飽きない。ロマの音楽のようなスケールも聴こえるような気がする・・・。
オーネット・コールマン等から影響を受けたのだろうか?7拍子、9拍子なんてのはざらなのだが、聴いていてノれるのが不思議だ。

本作は1966年ワルシャワでの録音だが、当時のポーランドはまだ共産圏だった。
そのころの様子はまったく知らないが、ソ連の支配下にあったということであるから言論・文化への弾圧は推して知るべしである。
そんな中でもこうしたニュー・ジャズを演奏した人たちがいたことに、私は感動を禁じえないのだ・・・。


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2011年11月10日木曜日

コルトレーン / シェップ "New Thing At Newport"





ニューポート・ジャズフェスのライブ盤。
コルトレーン名義のアルバムとして紹介されることが多いが、収録された5曲中コルトレーンは1曲だけであとはシェップ(そういや新しいCDでは収録曲増えてんだったっけ。まあいいか)。
しかも二人が共演してるわけでもない笑。
なんでこんな形式にして売り出したのかよくわからん。まあ、内容は好きだからいいんだが。

それにしてもシェップは楽器が上手くない。というかヘタである。コルトレーンと比較するともろにわかってしまう。
しかも1曲しか入っていないコルトレーンの曲はエグい"One Down,One Up"。
これはたまらなく格好よすぎる。あふれ出る爆発的なフレーズは圧倒的で、なんだかシェップが気の毒になってしまう。
が、シェップの出来が決して悪いわけではなく、「モソモソ、ギョェエ、モソモソ」というような独特のブツ切りシェップ節が疾走するトレーン・ワールドと対照的でなんとも楽しい。


←兄貴分のコルトレーンを一切真似しないシェップの男らしさに敬意を表し、裏ジャケも載せとこう。










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2011年11月4日金曜日

10,000Hit記念! ペーター・ブロッツマン・トリオ / "For Adolphe Sax"

「サックス界のヘラクレス」(?)という、よくわからない異名をつけられた、ドイツの轟音サックス奏者ペーター・ブロッツマン。
本作は1967年録音、ブロッツマンの処女作である。
サックスの開発者アドルフ・サックスに捧げるというタイトルだが、当のサックス氏がコレを聴いたら腰を抜かすだろう。「俺の作った楽器をこんな使い方しちゃうのかよ・・・。」てな具合に。


↑ブロッツマンは自身のレコードのジャケットアートを自ら製作しているという。美大出身なので得意だったのだろうか。このジャケも単純かつ地味だが、曲の世界観をそのまま映しているように思う。

誰が言い出したんだか知らん「ヘラクレス」などという異名は安っぽいにもほどがある。
が、玉石混交、数多のプレイヤーがひしめくフリー・ミュージック界において、屹立する巨人であることに間違いはなかろう。

2011年10月28日金曜日

竹内直(Ts,Fl) / "Live At Star Eyes featuring 後藤浩二"

サキソフォビアでも有名な竹内直さんのライブ録音。5曲中オリジナルは1曲だけだが、そんなことは関係ない。これは本当に素晴らしいアルバムだ。


オープニングを飾る"Dennis Charles"は竹内さんのオリジナル。名刺代わりの曲だそうで、5拍子がなんとも心地よい。少しかすれたようなテナーが軽快に響く。

そしてなにしろグッと来たのが2曲目"Mission"。
曲名からは想像しづらいが、ポップスでも通用するようなわかりやすく綺麗なコード進行が耳に心地よい。実はヤン・ガルバレク作曲らしい(へぇー・・・)。
図らずも感傷的な気分になってしまう、たまらん曲なのだ。

美しいメロディーをテナーが淡々と吹き、後藤浩二さんのメロディックなピアノソロが続く。
ゲストのソロでテーマに戻るか?と思いきや、竹内さんのテナーが爆発。メロディアスなソロにフリーキー・トーンが重なり、どんどんテンションが上がっていく。
息を呑む圧巻のソロである。


あれ、2曲目のことしか書いてなかった・・・。
ともかく聴いてみることをオススメする。

メジャーとはいえないかもしれない。が、疑問の余地なく傑作といえるアルバムである。


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2011年10月24日月曜日

ジョン・コルトレーン / "Dakar"

コルトレーンのレコードとしては比較的マイナーな「ダカール」である。


そもそもコルトレーンのリーダー作のようでいて実はそうではないのだ。
事情はよくわからんが何だかで出る予定だったレコードを、当時のコルトレーン人気に便乗してコルトレーン名義にすりゃ売れるだろうということでプレステッジが出し、コルトレーン初録音かと誤解され云々…。

よくわからんが、ともかくレコード会社のオトナな事情で出された一枚ということだろう。

こう書くとろくでもない内容だろうと誤解されそうだが、いわゆるコルトレーン・ジャズとはまた違ってなかなか面白い。

何しろコルトレーンとバリトン2本の共演なのだ。

もともとコルトレーンのテナーはパリッとしていてエッジがあり、ぶっといテナーとは別の色だが、バリトン2本に挟まれ、やたらと爽やかに聴こえてしまう。
特にペッパー・アダムスは説明不要の吹きっぷり。対してセシル・ペインは渋いんだかヘタなんだか正直イマイチではある。

コルトレーン自体が好きでなくても聴いて損はない(?)一枚、か。


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2011年10月8日土曜日

フレディ・レッド / "Shades Of Redd"





不出世のピアニスト、フレディ・レッドによる玄人好みな名盤である。
ジャッキー・マクリーン(As)
ティナ・ブルックス(Ts)
の2管がフロントという珍しい編成。
2管にテーマを吹かせるといっても途中からパート分けしており、楽器の音域を上手く使った仕掛けがなされている。
ハードバップ期の録音だが、どこか影を感じさせる雰囲気がいかにもレッドらしい。

1曲目"Thespian"、冒頭の2管による幻想的なテーマで「このアルバムはアタリだ」と確信させるものがある。
ブルックスの音の美しさが際立って聴こえるバラッド"Just A Ballad For My Baby"、エキゾチックなメロディが哀愁を誘う"Ole"。
こういう曲を聴くと、フレディ・レッドはメロディ・メイカーとして際立った才能を持っていたのだろうと思う。

レッドが残した作品は決して多くないが、その中でこの"Shades Of Redd"はアルバムとしてのまとまりもことさら素晴らしい。
ぜひ聴いていただきたい一枚だ。

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2011年9月29日木曜日

ミンガス / "Complete TownHall Concert"

また更新が遅れてしまった。

今回はミンガスのタウンホールコンサートである。

ミンガス・ビッグバンド(やたらと人数が多く、これをビッグバンドに区分していいのかは知らん)は、ご存知のとおり、メチャクチャである。カオスである。
ビッグバンド・ファンの方々には苦手とする人がいるのも頷ける。

だが、メチャクチャな中に流れる摩訶不思議な調和とブルースがミンガスのカラーでもあり、「ジャズ」としてのおもしろさの一面であるともいえるだろう。


さてさて、終盤"In A Mellow Tone"でバリトン・ソロが出てくるのだが、これがなんとも普通にかっこよく、思わずコピーしてしまった。

バリトンはペッパー・アダムスとジェローム・リチャードソン。

ライナーノーツによれば、このソロはアダムスによるものらしい。
たしかに骨太なゴリゴリバリトンはアダムスの音と思われるが、しかしこの人ってこんなにレイドバックした吹き方したっけか・・・。
まあとりあえず気にしないことにしよう。格好良きゃなんだっていいのだ。
珍しいことは何もやってないが、コード進行に合わせた繰り返し系フレーズを使ったもっていき方が実にうまい。

聴き取れるところは全部コピーしたが、アドリブの素材としても美味しいフレーズがいっぱいである。


しかし、如何せん録音状態が悪い。
さらにミンガス・ビッグバンドによくある、「譜面に書いてないフレーズをみんなで突然吹く」という技(?)が炸裂し、やかましくてソロが聴き取れない部分が多い。そういうバンドなので仕方ないのだが・・・。

2011年8月23日火曜日

フランソワ・ルイのバリトンマウスピース

今回は最近購入したフランソワ・ルイのバリトン・マウスピースについてでも。

私は本来アルト吹きだがバリトンも好きで、最近ビッグバンドでバリトンを吹く機会があったのでセクションに合うようなラバーのマウスピースを探してこれを買った。

モデルはラージ・チェンバー、一番広いオープニング。

※モデルの特徴等より詳しく知りたい方は石?管楽器のHPでも見てほしい。





何しろ音が骨太だ。
チェンバーがでかくてもモコモコしない。良くも悪くも現代のマウスピースらしい音といえる。ここぞというところで、低音がゴリッと鳴る。また、高音域でも音が痩せない。

アンサンブルでブレンドする音色を考えるとはいえ、
おとなしい音なんか出してもつまらん。

バリトンにしか出せない
トラックのエンジン音のような低音が出せないとちーとも面白くないわけだ。


オープニングが広いためある程度の息のサポートは必要だが、普段アルトでジョディの6番を使っている私でも慣れれば特に問題は感じなかった。
値段もまずまず。

ヴィンテージを探して東奔西走するのもいいが、これはこれでなかなかオススメです。

2011年8月22日月曜日

フレッド・アンダーソン&DKVトリオ

前回に引き続きしつこくシカゴ派、フレッド・アンダーソンである。



※ディスク・ユ?オンなどで探せば700円くらいで買える。間違ってもam?zonのやたらと高い出品に手を出さないように(そんな人いないか・・・)。
本作はシカゴを根城にする前衛サックス奏者ケン・ヴァンダーマーク率いるDKVトリオとの共演モノだ。
フロントが前衛サックス2本、ベースがケント・レスラー、ドラムはおなじみハミッド・ドレイクと来れば買わないわけにはいかない。

2011年8月17日水曜日

フレッド・アンダーソン(Ts) / "On The Run"

シカゴ前衛ジャズの重鎮フレッド・アンダーソン(Ts)が、自身の経営するジャズクラブ"Velvet Lounge"で行ったライブ録音。




80歳を迎えても衰えるどころかブリブリ吹きまくっていた前衛ジジイであったが、2010年ついに亡くなった。悔やまる死である。

さて、本アルバムのメンバーは
青木達幸(b)、ハミッド・ドレイク(ds)。

アンダーソンがもっとも好むトリオ編成による演奏だ。
フリージャズ、前衛ジャズに分類されるが(というか、モロそうなんだが)、よくあるフリーのサックスのようにキーキーとフリーキー・トーンを吹きまくるということはない。
逞しくも深い音色。何度か聴いていると同じようなフレーズがちらほら出てくるが細かいことは気にしない。
ギャーギャーやかましくすればフリージャズになると思っているやつにこういう録音を聴けと言いたい。 "Smooth Velvet"のうねるテナー、空気を感じつつ音を重ねていくベースとドラム。たまらなく最高である。
「型」が少ない分だけ、却って不自由になってしまうことも多い。何度も聴きたくなるフリージャズというのは案外少ないものなのである。

余談だが、シカゴのサックスとくればジーン・アモンズは当然出てくる。
同じテナーということもあり、アンダーソンもよくアモンズと比較されるが、ライナーノーツやら雑誌やらでたまに見かける「アモンズのような引き締まった音」という表現は
まったく意味がわからない。 時期によりけりとはいえ、どう聴いてもアンダーソンのほうがむしろ音はふくよかでやわらかいのだ。
一体何を聴いているんだと問い詰めたくなる。

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2011年7月11日月曜日

ルイ・ジョーダン/"Rock Doc! ~On Mercury 1956,57~"

以前、「ホンカーはテナーしかいない」というようなことを書いたが、この人を忘れてはいけない。

最強のパーティー男、ルイ・ジョーダンである。




↑とにかく楽しそう。たまらん。


1940年代から活躍したサックス奏者兼ヴォーカリスト。
ソニー・ロリンズが最初に憧れたプレイヤーであり、ブライアン・セッツァーは生涯の愛聴盤としてコレを挙げたという。

曲調はブルース、ジャンプ&ジャイヴにブギウギ。
まさに「ドカドカうるさいロックンロール・バンド」なのである。

このアルバムではほぼ全曲ルイ・ジョーダンのヴォーカルがメインでサックス専門ではないのだが、イントロ等に急に出てくるアルトサックスはグロウルしまくる。


そもそもジョーダンが自分のバンドを結成したきっかけは

「ビッグバンドに負けないパワーを少人数でやってやれ」
というものだったそうだから、これでもかのグロウルもうなずける笑。
"I'm Gonna Move To The Outskirts Of Town"のイントロのソロなんかもう最高。ブルースのサックスかくあるべきという具合のベタベタなフレーズがハマリまくる。




さて、余談だがグロウル奏法についてちょこっと書いてみよう。

ご存知の方も多いと思うが、サックスを「ウ~」と唸り声を出しながら吹く。
そうすると、サックス本来の音に「ギョエー」とか「ギュイーン」とか、そういった音の成分が混ざって、ホンカーお得意の「あの音」が出せるのだ。

※これはフラジオで使う「ファズ・トーン」とはまったく別モノ。

ソロのここぞという場面で使うと効果的なわけだが、実はこの奏法は結構むずかしいのだ。

まず、低音域の倍音にグロウルがかからないと、ただやたらとうるさい耳障りな音になってしまう。
これは先生の受け売りだが、息を下に吹き下げて、音の重心を下にもっていかないとギャーギャーいってるだけになる。
これはなかなか悲惨だ。


さらに、唸ろうとするとどうしても喉や口に力が入ってしまう。
サブトーンや倍音の練習を繰り返し、アンブシュアをリラックスさせた状態でやらないといかんわけだ。

ホンカーがバカみたいにギャーギャーやってるから簡単かと思いきや、むずかしそうでしょ?



しまった、余談で終わってしまった・・・。


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2011年7月7日木曜日

ブッカー・アーヴィン/"The Trance"

失礼を承知で申し上げるなら、「半端なテナー」というのがブッカー・アーヴィンに対する私の印象である。

テキサス出身で、タフ・テナーと呼ばれたりもするらしいが、私から言わせればブッカーの音はタフ・テナー(所為テキサス・テナー)のそれとはまるで別物だ。

名盤とされる"The Song Book"を聴くと、泥臭くささくれたような音色は素晴らしいし、フレーズも参考になる。が、どうも印象に残らないのであった。



さて、今回ご紹介するのは"The Trance"。
1965年、ヨーロッパ(どこだかは忘れた)での録音である。
わかりやすいんだか難解なんだかよくわからないレコードだが、なぜかこれは好きなのであった。


表題曲"The Trance"はモーダルなナンバー。
ジャッキー・バイアードのピアノが怪しいイントロを引き、中近東的な音階をはさむ怪しいメロディーが続く。
ブリブリ吹きまくるブッカーとは違った印象で、モード独特の緊張感が出ている。

ただし、1曲19分。このテンションで19分では冗長な感は否めない。
もう少し緩急がつけられればと思ってしまう。ベタな発想ではあるが。


そして、スタンダード"Speak Low”。
綺麗なメロディーがだんだん雲行きが怪しくなっていき、聴き手を不安にさせる変な曲に聴こえて来るわけだが、なぜかまた聴きたくなってしまう。


ヨーロッパという、フリー・ジャズにも寛容な風土の影響なのか、実験的試みがある作品だ。

そのものズバリのハード・バップでもなければフリーでもない。
大部分のリスナーには受けないだろうが、
ジャケット通りにそこはかとなく怪しいこの一枚、

たしかにイマイチではあるが、聴いてみるとこれまたおもしろいのである。

2011年6月27日月曜日

ティナ・ブルックス/"Back To The Tracks"

火花の出るようなバップやフリー・ジャズもいいが、薄暗いジャズ喫茶に似合う「派手ではないがこれぞ名演」なるものを聴きたくなったりする。





ティナ・ブルックスのテナーは正直、地味だ。


ブルックスがジャズ界に残した足跡はあまりにも小さい。
さらに悪いことにテナーマンには巨人が多く、完全に影が薄くなってしまった。

たしかに、演奏技術はロリンズやコルトレーンに遠く及ばない。が、くすんだような独特の音色と影を感じさせるオリジナル曲は地味ながら魅力的。
ふとたまらなく聴きたくなる、渋いテナーなのである。


本作は1960年録音。
ジャケット・デザインまで決まっていたのにお蔵入りになってしまったため、
永らくブルーノート幻の名盤とされていたのは有名なエピソードである。

そんな話はともかく、2曲目"Street Singer"を聴くべきだ。

テーマはマイナーペンタを拝借したシンプルなものだが、この物悲しさはどうだ。たまらない。
この曲のみブルックス、ブルー・ミッチェル、マクリーンの3管なのだが、この3人、なんとなく音色の傾向が似ている。
皆なんともいえない暗い音だ。
トランペットがドナルド・バードだったら、アルトがルー・ドナルドソンだったら、こうはいかなかったろう。

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ブルックスは74年、42歳の若さで亡くなった。
クスリをやりすぎ、肝臓を悪くしたのだそうだ。

長生きしても結局「マイナーなテナーマン」だったろうが、あの音でまたマクリーンと演って欲しかった。

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2011年6月21日火曜日

エリック・アレキサンダー&ヴィンセント・ハーリング/"The Battle"



米国バップシーンを牽引する二人のトップミュージシャン競演盤である。

ジーン・アモンズとスティットの演奏で有名な"Blues Up And Down"を持ってくるところなど、サックス・バトルのツボを押さえているなあ、という感じだ。

しかしまあ、エリック・アレキサンダーのというのは不思議なプレイヤーだ。
豪快なトーンですごいことを吹いているのに、静かに聴こえる。というか、熱さがあまり感じれない。
そのクールは雰囲気が人気の秘密でもあり、またイマイチと言われる部分でもあるのだろう。
それに対して、ヴィンセント・ハーリングのアルト、とにかく音が太い
キャノンボール・アダレイに強く影響を受けたであろう、「鳴りきったラバーのマッピの音」で吹きまくる。
テクニック偏重派ではなく、やたらと難しいことをやり過ぎない、ある意味泥臭いフレーズが熱い。

たしかに内容は現代のバップの最高峰といえるだろう。
各プレイヤーのソロは抜群にかっこよく、指折りの名手による最高の演奏だ。
練習素材としても申し分なし。「あんなフレーズが自在に吹けたら・・・。」とつくづく思う。
サックス奏者は買って聴くべきCDであることは間違いない。

だが、はっきり言えば、おもしろくない

生意気を承知で言うが、昔の音源を聴くのと同じだ。
バップとハード・バップ、過去の偉大な演奏の焼き直しである。
巨人の演奏を踏襲しつつ、それを壊すことをしなければ新しいものは生まれない。
これは、古今東西の文化に共通してあてはまることだ。
そして、「トップ・プレイヤーによるギリギリ感」がない。
上手すぎる。
ミストーンもないし、フレーズに詰まってしまったりすることもない。
我々が聴きたいのは、スター・プレイヤーの技量を持ってしてもコレが限界!というスリリングな演奏なのだ。
結局新譜を買わなくなってしまう理由がここにあるのだ・・・。

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2011年6月11日土曜日

追悼 金井英人/アランフェス協奏曲

今回はサックスの話はあまり出てこないので悪しからず。


日本ジャズの牽引者であったベーシスト、金井英人さんが4月8日に亡くなった。
不覚にも、亡くなっていたとは知らなかった。
享年79歳。
悔やまれる死である。

1960年代初期、高柳昌行、富樫雅彦らとともに「新世紀音楽研究所」を旗揚げ。独自の音楽を作るために注力し、日本における前衛のさきがけとなった。
※ここらへんの状況は「日本フリージャズ史」(副島輝人著)に詳しい。

今回ご紹介するのは、金井英人クインテットにより1978年に録音された名盤
『アランフェス協奏曲』である。

※中古屋で探せば当然こんなに高くないので心配いりません。オリジナル盤じゃあるまいし。

これはもう圧倒的だ。
アランフェスの美しいメロディーをテナー2本でドラマチックに提示しつつ、不気味で荒々しいベースの重低音が後ろで鳴っている。
憎い演出だな、というのが第一印象だ。
サックス2本のうち、特に藤原幹典のアルトはすごい音を出している。
鳴りきったラバーのマウスピース独特の、柔らかくもピーキーな音だ。メタルじゃこうはいかないんだな。
藤原氏はこのとき若干20歳(!)。しかも楽器を始めて3年程度だったらしいが、にわかには信じ難い。10年以上楽器を吹いているこっちの立場がない。
尖った若手を集めて自由にやらせつつ統率し、「自分のアランフェス」を作り上げた金井氏は、ベーシストとしてだけでなくアレンジャーやバンドリーダーとしても非凡であったのだろう。

こういうジャズをやる人は最近いないな、売れないからかな、などとレコードを聴きながらひとりごちるのである。
(以上、敬称略)
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2011年6月7日火曜日

思い出のアーチー・シェップ/"Attica Blues"

部活でサックスを始めた高校1年生のとき、何かの雑誌で「アーチー・シェップが素晴らしい」と書いてあったのを読んで地元の図書館で"Attica Blues"を借りた。

今から思えば、シェップのCDが図書館に置いてあること自体笑える。

誰かリクエストしたんだろうか・・・。





ともかく聴いてみたところ、スピーカーから流れ出したのは
ドロドロファンクとグチャグチャジャズのシチュー
みたいな、とんでもないものであった。
当時私が持っていたサックスのCDはキャンディー・ダルファーとサンボーンだったわけだから、それはそれはおったまげた。
と同時に、「こんなわけのわからん音楽が二度と聴くまい」と思ったわけです。

さて、時は過ぎて今改めて聴いてみると
これがまたとんでもなくかっこいいと感じるのだから困ってしまう。
アーチー・シェップは「フリージャズの闘士」と呼ばれた時代もあり、敬遠してしまう方も多いかもしれないが、この盤に関してはあまり心配要らない。

本作は、アッティカ刑務所での暴動で多数の黒人囚人が殺された事件を元に作られたそうだが、シェップの作品の多くに人種差別への怒りがあるのは言うまでもない。
この時代の多くの黒人ミュージシャンがそうであったように、根底に流れる思想は
「ブラック・イズ・ビューティフル」
そのものだ。
が、ここでは詳述は割愛させていただく。
詳しく知りたい方は、ジャズ批評のバックナンバーでも探したほうがよりわかるはずだ。

話を戻そう。

ともかく、このレコードはフリージャズというより、インチキ臭いファンクといった方が近いだろう。
なぜこういったフォーマットを用いたのかは定かではないが、このインチキ具合がまたかっこいいのだから困ってしまう。
70年代の泥臭いファンクとシェップ独特の呪術的なリズム。
それを演奏するのはヴォーカル、ホーンセクション、ストリングスまで混ぜた30人以上の大バンド。

Pファンクにも通じる真っ黒なノリだが、意外(というのは失礼だが)調和がとれている。
印象がガラッと変わる6曲目はサッチモの追悼曲。
美しいストリングスをバックに、ソリッドな音色のソプラノを吹きまくるシェップが非常に印象的だ。

ただし、趣旨のわからんフェイド・アウトでの終わらせ方はどうにかして欲しかった・・・(笑


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2011年5月28日土曜日

ハミエット・ブルーイット/"Dangerously Suite"

直訳すれば「危険な組曲」。
ハミエット・ブルーイットでこのタイトルとくれば、どんだけ前衛かと思いきや、



アフロ・アメリカン・パワー全開のブラック・ミュージックなのである。

フリーキー・トーン連射のフリージャズではなく、アフリカをバックグラウンドにした、「いわゆる黒人音楽」がこのアルバムの主題だ。



アイリーン・ダッチャーという女性ヴォーカルが唄う"Ballad Of  Eddie Jefferson"では、ヴォーカルに絡むバリトンサックスが、これまた実にいい。
 アフリカ語(すいません、どこの言葉かさっぱりわからんので・・・)と思しき謎の語りが入る曲まで出てくる。
5曲目"Blues For Atlanta Georgia"は古いスタイルのブルースだが、
珍しいアルト・クラリネットを吹く。
瑞々しいクラの音色は相変わらず素晴らしく、何しろ音程がいい(爆笑)。

さらに、バリトンを存分に吹きまくる"Doll Baby"もB.Bキングの時代を思わせるブルースだ。
最低音を使った、ちょっと笑ってしまうような泥臭いテーマが始まった瞬間、思わず「おおっ、かっけ~!」と叫んでしまう。
フリーキー・トーンも当然使うし、いわゆる「普通のジャズ」はほとんど演奏しないが、ブルーイットが最も得意とするのはブルースとバラッドなのだと、再確認させられる。
地味だが、アタリな一枚だ。
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2011年5月19日木曜日

太田邦夫クインテット/"My Back Pages 俺たちの青春"

前回に引き続きしつこく日本ジャズをご紹介したい。

これは一部のマニアしか知らない、埋もれた名盤だと思う。
アマゾンでは取り扱いすらされていなかった(笑)。


当然小生も知らなかったのだが、ディランの"My Back Pages"というタイトルを見て即買いした。



中部地区を中心に活動していた若手、しかもメンバーは全員20代!

原石のような若手を発掘するのに重きを置いたスリー・ブラインド・マイスらしいレコードだ。



↑見よ!この野暮ったいが「わかるなぁ」というジャケットを!


メンバーは
太田邦夫(P)
高野正幹(Ts)
松浦克彦(Tp)
加藤雅史(Ba)
夏目純(Ds)
失礼は重々承知だが、正直全員知らなかった・・・。
だが、TBMが取り上げただけはある、グループのカラーを存分に打ち出した充実の内容だ。
何しろディラン"My Back Pages"を取り上げたことに拍手を送りたい。
スローな8ビートに載せて、テナーが淡々とメロディーを吹く。
ポップスの曲をインストで演る例は多いが、薄っぺらいフュージョンサウンドになってしまうことも多い。
この曲もそういった意味では、「ダサい」のだが、

魂が反応するあのメロディー

若さ剥き出しなソロ。
もうたまらん。全部許せてしまう。

↑ディランのモノホンはこれに収録。

この録音がなされたのは1976年。
35年前だ。
当時20代だったメンバーはもう還暦目前。
今またこのメンバーが揃って"My Back Pages"をやったなら、どんな演奏になるのだろう。

きっと熟成された音が聴けるにちがいない。

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2011年5月8日日曜日

5,000Hit記念!森山威男カルテット/"Hush-a-Bye"(サックス:小田切一巳)

このブログもついに5,000ヒットを超えました。

いつもご覧いただき、ありがとうございます!

最近は僅かではありますがコメントもいただけるようになり、CDもちょこちょこ売れて嬉しい限りです。
趣味の範疇とはいえ、ブログをやっている側からするとこういった反応をいただけるのは本当に励みになるのです。
今後とも懲りずにお付き合いいただければと思います。

*********************************************************************************

さてさて、今回は森山威男カルテットの"Hush-a-Bye"である。

森山威男 (Ds)
小田切一巳 (Ts,Ss)
向井滋春 (Tb)
板橋文夫 (P)
望月英明 (B)




夜明けの空を飛ぶ飛行機の翼が美しいジャケットだ。

山下洋輔トリオ時代から変わらない森山さんのドラミング、ペダルをへし折ったという板橋文夫さんのピアノソロは凄まじい。

しかし、何をさておきこの盤で聴くべきは、
テナーサックス小田切一巳さんをフィーチャーした

"Hush-a-Bye"だ。


この演奏は、本当にすごい。

悲愴感が漂い、それでいて豪快な、独特のギザギザした音。
無駄な音は一切ないという印象であった。
マイナーの"Hush-a-Bye"に合うなあ、と思う。

他にこのテナーを表す言葉が見つからない。とにかく一度は聴くべき演奏だ。

小田切さんは1948年生まれ。
水橋孝グループなどを経て、このアルバムで一躍注目を集めたそうである。
しかし、結核に罹ってしまい1980年に31歳の若さで亡くなってしまった。
存命であれば、64歳になっていたはずである。
あの音はどうなっていたのだろうかと思わずにはいられない。
一度でいいからライブで生音を聴いてみたかった。

2011年5月6日金曜日

峰厚介クインテット/"ミネ"

久しぶりの日本ジャズである。

1970年(昭和45年)録音。
スリー・ブラインド・マイスの記念すべき第一弾
が、この"ミネ"だ。

←地面から峰さんの首が生えているという、何がなんだかわからないがなんとも凄まじいジャケット。
これでジャケ買いはなかなか厳しいものがある。

まるでダリかエッシャーの絵のようだ。










実は、私は最近まで峰さんがもともとアルト吹きであったことを知らなかった。
勝手にバキバキなアルトだろうと想像していたが、意外と(というのは大変失礼だが)
洗練された音色なのだ。

2011年5月3日火曜日

アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ/"A Night In Tunisia"

坂道のアポロンにアート・ブレイキーが頻繁に登場するもんだからまた聴きたくなり、引っ張り出してきたのがコレである。


ジャズ・メッセンジャーズ(以下、JMと言ふ)の名盤といえば、モーニンを頂点としてカフェ・ボヘミアやらバードランドでのライブ盤やら、説明不要の金字塔ばかりだが、今回ご紹介するのは言わば

「隠れ名盤」である。


メンバーは
Art Blakey (Ds)
Sam Dockery (P)
Jimmy De Brest (B)
Bill Hardman (Tp)
Johnny Griffin (Ts)
Jackie Mclean (As)

マクリーンとグリフィン以外は知らない人ばっかりだ。

そもそもマクリーンが在籍した時代のJMは、ホレス・シルヴァーが活躍した時代とベニー・ゴルソンらが在籍した有名な時代とに挟まれていて、ハード・バップファンの間でも若干影が薄いとされているらしい。


だが、本作でもJM独特の「これぞハードバップ」な雰囲気、疾走感は十分発揮されており、上記の有名な作品群にも決して劣らない。

こういう隠れた名作を探すのもジャズの醍醐味と思う。

1曲目"A Night In Tunisia"はブレイキーのための曲になっているが、聴き応え十分。
なにしろマクリーンのソロが珍しくリズムに8分をバチッとはめた「バップなソロ」になっていて、

「マクリーンてちゃんと吹けるじゃんか!」

と思わせられる(失礼な話だが笑)。

いい意味でも「フツーなソロ」なので、コピーしてみると結構おもしろいかもしれないが・・・、どうでしょう?


関連記事
私の好きなジャッキー・マクリーンのレコード
坂道のアポロン
ジョニー・グリフィン/Studio Jazz Party
ティナ・ブルックス/"Back To The Tracks"

2011年4月27日水曜日

坂道のアポロン

久しぶりの更新になってしまった。
今回はディスク・ユニオンとのコラボで話題になった漫画『坂道のアポロン』についてでも。


私個人をご存知の方であれば、少女漫画を読んでるなんて聞いたら頭がおかしくなったと思うだろう。
自分でも少々恥ずかしい。

しかし、これがなかなか面白いのだ。

1966年初夏、父親の仕事の都合で、横須賀から長崎県の田舎町へ転校してきたボンボン・薫。

ひょんなことから不良のジャズ・ドラマー千太郎と出会い、それまで苦しいだけだった薫の高校生活は思わぬ方向へ進むことになる。


千太郎の影響から、クラシック・ピアノしか知らなかった薫はジャズに夢中になり、二人は親友になっていく。


とまあ、あらすじはこんな感じである。



何がおもしろいって、
この漫画からはジャズの熱気が伝わって来るのだ。

音楽が聴こえてくる漫画というのは、そうはないだろう。
メインキャラクターの二人がセッションをするシーンが頻繁に出てくるのだが、これがたまらなく楽しそうで、メッセンジャーズの"Moanin'"やマイルスの"Four"が無性に聴きたくなる。


物語としては、登場人物たちが音楽に熱中し、恋愛に心を焦がし、他人に嫉妬し、家族に悩み・・・等々、ありがちな青春白書的展開ではあるが、

高校時代独特の眩しさ、思春期の危うさを実に上手く描いていて、妙になつかしい気分にさせてくれる。



著者が主人公たちにジャズを演らせたのには、「人生は何があるかわからない、アドリブようなもんだよ」、というメッセージが織り込まれているのかもしれない。

うるっと来るシーンもあり、結構オススメである。




関連記事
アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ/"A Night In Tunisia"

2011年4月19日火曜日

なぜホンカーはテナーばかりなのか?

テナーサックスにはホンカーという部族(?)がある。
他には
「スクリーマー(絶叫する奴)」
「ブロー・テナー(吹き散らすテナーサックス」
より広い意味では「テキサス・テナー」
などと呼ばれたりもする。

←ホンカーの代表格の一人、ビッグ・ジェイ・マクニーリー。
客を興奮のるつぼに叩き込む、圧倒的におバカなパフォーマンスが最高だ。






要はブリブリギョエーと吹きまくるテナー族のことだ。

ブルースの派生系ともいえるジャンルで、ロックンロールにつながるようなスタイルの曲が多い。
当時のダンス・ミュージックのひとつといえるだろう。
しかし、「ブロー・テナー」という名称はあるが、
「ブロー・アルト」という言葉は聞いたことがない。
ビッグ・ジェイ・マクニーリーイリノイ・ジャケーエディ・ロックジョウ・デイヴィスアーネット・コブ、ハル・シンガー、ジミー・フォレスト、キング・カーティス、、ジョー・ヒューストン、ジュニア・ウォーカー・・・。
みんなテナー奏者なのだ。
ホンカーはテナーの専売特許なのか?その理由は何なのか?
楽器の特徴から考えてみた。


<なぜサックスなのか>
そもそもなぜサックスにしかホンカーはいないのか?
ホンカーと言われる部類にはサックス吹きしかいない。というか、サックス吹き以外にはホンカーと呼ばれる名前は付かない。
理由を考えてみたが、ポイントのひとつは自由度の大きさ
にあるように思う。
サックスはトランペット、トロンボーンなどの金管楽器と比べて、非常に肉声的な音がする楽器である。技術があれば息の音と聞き間違うようなサブトーンから、虫の鳴き声のような怪しい音までカバーが可能だ。
逆に言うと、自由度が高い分適当な楽器とも言えるが。
それに対して、金管楽器は良くも悪くも「金管の音」しか出ない。
歴史が古いこともあり、楽器としても完成されているので、適当さが入る余地が少ないと思われる。

<なぜテナーサックスなのか>
では、ブロー・テナーしかいないのはなぜなのか?
ここで、演奏者の吹き方を考えてみたい。
レスター・ヤングは楽器を横向きにして吹くし、ビッグ・ジェイ・マクニーリーに至ってはブリッジしながら「オギョー」と吹く。
対してアルトでは、ほとんどの人が楽器をガシッと構えて動かず吹く。
映像を見る限りチャーリー・パーカーもあまり動かないし、キャノンボールはU字管が腹にめり込んで固定されている(まあこれは冗談)。

つまるところ、
テナーサックスはいい加減さが味として受け入れられる楽器なのだ。
音域がアルトより低いことも影響し、吹き損じや音の揺れが「そういうプレイなのだ」と捉えられやすい。
ジャズテナーというジャンルが確立すると同時に、そういった演奏がテナーのスタイルのひとつである、と聴衆に認識されたのだ。
よって、多少メチャクチャにやっても許される(笑)。
反面、アルトで同じことをやると悲惨なことになる。
単なるヘタクソ、しかも聞くに堪えないヘタクソな演奏になってしまう(俺は身をもって体験した)。

さらには、ホンカーが吹くジャンプ・ブルースのような曲では、フロントでソロを取るテナーはヴォーカルの役割も務める。
客をノリノリにさせなくてはならない。
そのためには、ある程度メチャクチャをやっても許容される楽器であったほうが都合がよかったのかもしれない。
ガツンと低音も出せれば、絶叫のフラジオも出せるテナーは格好の道具だったのではないか。

<ホンカー名盤紹介>
さてさて、あれこれ書いてみたが、魅惑のホンカー・ワールドを知るには聴いてみるのが一番だ。
最近はジャンプ・ブルース系の音楽は流行らない。
ホンカースタイルでテナーを吹く人などほとんど見かけない。
だが、いい加減でおバカで底抜けに明るい音楽もまた格別にいいものだ。

■Honkers &Bar Walkers Vol.1

ホンカーのコンピ盤。
内容は比較的おとなしいが、ジミー・フォレストの名曲"Night Train"も入っていて、入門用(?)としては最適と思う。

■Recorded Live At Cisco's / Big Jay Mcneely

ホンカーバカ一代男、ビッグ・ジェイ・マクニーリーの熱気あふれるライブ盤。
「ヒーヒーヒィイイ~」とフラジオをキメまくり、お客さんは大喜び。
絶叫サックスだけでなく、オルガンが何気に渋い。


■Live At Fillmore West / King Curtis

説明不要の歴史的名盤。
ミスター・ホンカーであるキング・カーティスによる怒涛のライブ録音である。
"Menphis Soul Stew"や"Changes"など、ソウルの名曲を堪能できる。
コレを聴かずしてブラック・ミュージックは語れない!

2011年4月17日日曜日

満員御礼!! 大震災復興支援チャリティライブ

4月16日に新大久保Space Doで行われたTAFとTokyo F.O. Lab Bandによる大震災復興支援チャリティライブには、
なんと約120人の方にご来場いただき、大盛況でした。



募金額も、これまでのTAFライブ史上最高額となる20万円が集まりました。
す、すげぇ・・・!!

集まった募金は日本赤十字を通して、全額、被災地の方々の復興支援に寄付させていただきます。

今回のTAFセットリストはコチラ↓
1. The Los Endos Suite / Phil Collins
2. The Industrial Strength Stomp / Bob Florence
3. Emily / Bob Florence
4. American Express / Thad Jones & Mel Lewis
5. Hope / Toshiko Akiyoshi
6. Giant Steps / (arr.)Scott Hall  
(enc.) Knuckleball / Univ. of North Texas One O'Clock Lab Band

演奏は正直ヤバイとこもあり、冷や汗もんでした・・・。
会社の先輩方や学校の後輩が来てくれて嬉しい反面、いつも以上に緊張し、ソロの前は指が震えました笑。


対バンのTokyo F.o.Lab Bandさんは日大リズムのOB中心ということもあり、ラテンの手馴れた感じはさすが!
ホーンもガツンとパワーがあり、迫力がすごい。次回も是非競演させていただけたらと思います。

ご来場いただいたお客様、対バンのTokyo F.o.Lab Bandさんに、心より御礼申し上げます。

ありがとうございました。


さて、今春最大のお祭りは終わり、明日からはいつも通りのタフな日々が待っています・・・。

それではまた!

TAF Project公式ホームページ:http://tafproject.net/

2011年4月14日木曜日

ソニー・スティット/"Newyork Jazz"

今日はソニー・スティットの私的名盤(?)をご紹介する。

私はアルト奏者ではスティットも大好きだ。
生涯正統派プレイを貫き、奇を衒ったことを一切しなかった、生粋のバッパーである。

よくもまあ、数十年間も同じことをやり続けたもんだと、変な意味ではないが感心してしまう。


↑内容は文句なし。それだけにこのやる気を感じさせないジャケットがなんとも痛い。


スティットはやたらと多作なプレイヤーだ。
リーダーアルバムだけで軽く100枚(!)を越えるいうのであるからびっくり仰天である。
しかもそのほとんどがワンホーンカルテットなのだ。

たとえばウッズはドナルド・バードと2フロントの時期もあったし、マクリーンはグレシャン・モンカーⅢ世のような、上手いんだか上手くないんだかわからんプレイヤーとの競演なども多かった。
しかし、スティットの真骨頂はやはりワンホーンに尽きる。

2011年4月3日日曜日

TAF & T.F.O 大震災復興支援チャリティ Big BAND LIVE

私事ですが、来る4月16日に私の所属している社会人ビッグバンド"TAF Projiect"がライブを行うことになりました。

通常であればお祭り気分で大騒ぎするのですが、このたび東日本大震災が発生したため、
今回は
震災復興のためのチャリティーライブとさせていただきました。

"TAF Projiect"はこれまでのライブでも、しかるべきルートを通じて収益の一部を地雷処理キャンペーンに寄付させていただいおります。

ご来場を心よりお待ち申し上げております。



■開催日:4月16日(土)

■場所:SpaceDo
※JR新大久保駅徒歩3分、管楽器DAC地下。 http://www.kkdac.co.jp/cgi-bin/do/concert.cgi

■開場:13:30、開演:14:00    

※T.F.O14:00~、TAF15:30~
※終了17時頃。お時間は多少前後する可能性があります。お早目のご来場をお勧めいたします。
※当日は軽食・ソフトドリンク等はこちらで無料提供させて頂きますが、その他飲食持ち込みや、 演奏中の出入りも自由です。また、小さなお子様連れの方もお気軽にお立ち寄りください。

■料金
誠に勝手ながら、入場料金につきましては特に 金額を定めず、皆様の許す範囲の額を会場にて募金頂くと言う事にさせて いただき、
皆様からの募金は全額100%、日本赤十字社を通して、被災地の方々の復興支援に寄付させて頂きたいと存じます。
また、今回はライブ会場のSpaceDoさんのご厚意で、 震災復興募金にご協賛頂いております。重ねて御礼申し上げます。

■出演バンド紹介

★TAF  Projiect
腕に曲を合わせない,曲に腕を合わせるのモットーのもとに
「キツイ曲でも決して諦めない」
「世界平和」
の2つをコンセプトに、東京を中心に活動する、 社会人・学生を中心としたモダンビッグバンド。
通常のライブでは、収益金の一部を地雷除去キャンペーン等の 平和活動に寄付しています。
今回は、急遽曲目を一部変更し、穐吉敏子さんから直接ご提供 いただいた、原爆投下後の復興を祈る曲「HOPE」を演奏させて頂きます。
http://www.tafproject.net/


★Tokyo F.O. Lab Band(T.F.O.)
ラテンジャズを中心に、ファンクや フュージョンなど 幅広いジャンルの音楽を演奏する社会人Big Bandです。
日本を代表するラテン系学生バンド、日本大学Rhythm Society Orchの
OBを中心に、1996年の結成以来、月2回の練習を続け、 年4回のライブ活動を行っております。ラテンジャズを中心に、
未知の領域に果敢に挑戦し続け、常に進化するバンドT.F.O.。
今回はいったいどんなサウンドが創り出せるでしょうか。
請うご期待!!
http://asada.oops.jp/tfo/index.htm 

2011年4月2日土曜日

クルセイダーズ /"Scratch"(サックス:ウィルトン・フェルダー)

前回はベルグ・ラーセンのテナーマウスピースについて書かせていただいたが、
本日はウィルトン・フェルダーをご紹介する。

テキサス・テナーらしい鷹揚さがフェルダーの魅力でもあるが、ラーセンのマウスピースはコシのある音色作りの一翼をに担っていると思う。



フェルダーといえば勿論クルセイダーズだ。
名演が多いので一枚を選ぶのは難しいが、ライブ盤ということで『スクラッチ』を選んだ。

1977年録音。
ヴォーカルなし、インスト時代のころの作品だ。
瓶から水銀が流れ出ているという、趣旨も意味もさっぱりわからない謎のジャケットだが、フュージョンの先駆け的バンドのライブ演奏という点でも非常に評価は高いようだ。

何より聴くべきは3曲目"Hard Times"だろう。
この1曲を聴くためだけに本作を買う価値があるといっても過言ではない!

古いブルースのスローナンバーをフェルダーがフィーチャリングで歌い上げる、これを超名演と呼ばずしてなんとする。
運指とタンギングがところどころ合わなかったりと決して饒舌なテナーではないが、客の期待や盛り上げどころを心得た節回しがたまらん。

他にはキャロル・キングの名曲"So Far Away"もやっている。
曲自体はポップス曲をインストでやりましたみたいな感じなので個人的にはそこまでグッとこないが、ボントロとテナーがひたすら循環呼吸でロングトーンし続けるという、ある意味「名演」を聴くことができる。


しかし、バンドが有名になればなるほど、各プレイヤーのソロ活動は難しくなるものだ。
フェルダーもしかり、ソロ名義のアルバムも聴いたが、バンドの延長にあるサウンドという色彩が強く、「これならクルセイダーズ聴けばよくね?」という印象しか持ち得なかった。

サックスのスタイルとしても、ホンカー的キャラクターにはある意味限界があるということなのだろうか・・・。


Wayne Henderson (Tb)
Wilton Felder (Ts)
Joe Sample (Key)
Stix Hooper (Ds)
Larry Carton (Gt)
Max Bennett (Ba)

2011年3月28日月曜日

ベルグ・ラーセン(メタル) テナーマウスピース

久しぶりにマウスピースを購入した。

モノはラーセンのメタル。
ヴィンテージではなく現行品とのことだが、多少前のものではあるようだ(詳細不明)。

まあ、古けりゃいいってもんでもないので、とりあえず気にしない。音がよけりゃ何だっていいのだ。

オープニングは110、一番高いゼロバッフルである。
※ラーセンは2、1、0と数字が少なくなるほどにバッフルが高くなり、音は明るくなる。

←キャップが透明なプラスチックというのは初めて見た。
付属品はいくらでもとっかえられるので、年代特定の材料にはならないが・・・。







本体は細身だが、息の通り方にストレスは特段感じない。
110というオープニングは広すぎも狭すぎもしない標準的なものだが、ハイバッフルだけあって、フルパワーで吹けばゴリゴリのホンカーサウンドになるし、ピアニッシモでのコントロールも楽だ。
オットーリンクほどではないが、サブトーンも比較的得意のようである。



ラーセンの魅力はなんといってもその

「イモっぽさ」
にある。

これぞジャズテナーの王道たるオットーリンクと違い、独特の直線的かつ無骨な音だ。
ガーデラやポンゾールのようなパワー系ハイエンドマウスピースともまた違う、
「垢抜けない」部分があり、ブルースやソウルのサックスサウンドを支えてきた。

ジャズテナーでもオットーリンクの圧倒的シェアがありながら、確実な人気を集めるマウスピースでもある。

最近はあまり見かけないが、有名プレイヤーも結構使っていた。
一番有名なのはソニー・ロリンズだろう。
他には、ガトー・バルビエリ、デヴィッド・マレイ、ハロルド・ランド、クルセイダーズのウィルトン・フェルダー、古い時代はチャーリー・ヴェンチュラ等々。
タワー・オブ・パワーのテナー奏者レニー・ピケットはゼロバッフルモデルを使っていた。
やはりパワー系テナー奏者が多い。

ただ、男の花道的な音色がウケないのか、日本では今ひとつ人気がないらしい。
たしかにキャラクターが起つので万能とはいかないが、ツボにはまると存在感を主張できる音ともいえるだろう。

私個人の趣味としてはかなり好きな部類なのでオススメしたいのだが・・・・。

関連記事
高瀬アキwithデヴィッド・マレイ/”Blue Monk”
クルセイダーズ /"Scratch"(サックス:ウィルトン・フェルダー)

2011年3月21日月曜日

ペッパー・アダムス(Bs) / "Encounter!"

久々の更新になってしまった・・・。

前回はズート・シムズについて書いたが、本日ご紹介するのはバリトンサックスの雄ペッパー・アダムスとの競演盤"Encounter!"である。

1968年録音。
ペッパー・アダムスといえば、説明不要のブリブリゴリゴリのバリトンだが、クール派テナーのズート・シムズとの競演が異色の作品だ。

アダムスの名盤としては"Critics Choice"や"10 To 4 At Five-Spot"が挙げられることが多いが、

アダムスのスローナンバーが聴きたいならば、

少々渋めの本作を推したい。

何はともあれ、エリントンで有名な"Star Crossed Lovers"が出色の出来栄えだ。
ズートとの2管だが、曲は4分弱と短く、ソロもあまりない。
が、印象的なテーマを通して、二人のプレイヤーの音をじっくりと聴くことができる。
アダムスの演奏は偉大なるエリントン楽団の番頭ハリー・カーネイに捧げたもののようにも聴こえるのだ。

また、アダムスがワンホーンでしっとりと聴かせる"I've Just Seen Her"もこれまた名演である。
バリトンはエッジは立っているが、音の中は柔らかいというような印象で、これがバラッドにバッチリハマるのである。


←なんとも頼りない、公務員のようなツラだが、比類なき強靭な音を出した歴史的バリトン・バッパーである。











メンバーは以下の通り。
Pepper Adams (Bs)
Zoot Sims (Ts)
Tommy Flanagan (P)
Ron Carter (Ba)
Elvin Jones (Ds)

この面子だけでも、聴くのは義務といってよいだろう。

残念なのは、アダムスのバリトンの録音がテナーに比べて小さいことだ。
エルヴィン・ジョーンズのドラムはドカドカうるさく録れているにも関わらずである。
録音環境によるものだろうが、もう少し何とかならんのか。

関連記事
サージ・チャロフ/"Blue Serge"
 サヒブ・シハブ/“Sentiments”
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ズート・シムズ/"Soprano Sax"
John Coltrane / "Dakar"

2011年3月10日木曜日

ズート・シムズ/"Soprano Sax"

ソプラノサックスをどういう音にしたいのかイメージがつかめず、困っていたときにバンドの先輩に薦められて買ったのがコレ。
テナーマンとして有名なズート・シムズだが、
実はソプラノサックスの名手でもあるのだ。

同じクール派のテナーの中でもスタン・ゲッツのように華のあるタイプではなかったが、レスター・ヤング直系のひたすらスイングしまくるスタイルを貫いた。

本作の録音は1976年。
フュージョンの足音が聴こえてきそうな時代に、50年代の録音かと思うような選曲と演奏を選択したのも、ズートならではといえるのではなかろうか。

1曲目"Someday Sweetheart"はディキシー時代の古い曲。
一緒に口ずさみたくなる親しみやすいテーマがたまらん!
よく聴くと低音域ではサブトーンを吹き、コードトーンで駆け上ったキメの高音域では張りのある音になる。
このあたりの音色のコントロールは見事だ。
4曲目"Bloos For Louise"は愛妻のために書いたズートのオリジナルだそうだが、古いスタイルのブルースをソプラノで吹くというのがかえって新鮮。
ズート・シムズのソプラノは温かみのある音だが、これといった真新しいものはない。
シドニー・ベシェのように強烈なヴィブラートを使うわけでもないし、コルトレーンのような攻撃性もない。
だが、それがポイントなのだとも思う。
ソプラノのような高音域の楽器はコントロールがどうしても難しくなるので、口や喉をリラックスさせた状態で自然な音を出し、楽器を鳴らすという、当たり前のことがより重要になるような気がしてくるのだ。
ソプラノサックスの音源ならこいういうのをオススメしたい。
某ケニーなんぞ聴いたって仕方ない。

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スタン・ゲッツ最後のステージ/”People Time”

2011年3月2日水曜日

松本英彦さん/"Sleepy"

TBMは若手ばかりでなく、ベテランの演奏も録音し世に出している。
そのひとつが日本テナー界の大御所、スリーピー松本さんによるこの一枚だ。

1976年録音。

松本さんは1926年生まれなので、当時50歳。
ビッグ・フォー時代はブローテナーのような迫力あるプレイがすばらしかったが、本作ではコルトレーンのような音色になっている。
ベテランの演奏なので激渋かと思いきや、実はかなり尖っている。

A面2曲目"You Don't Know What Love Is"では松本さんのフルートが聴けるのだが、
まず驚かされるのは低音の太さだ。
初めて聴いたときはアルトフルートではないかと思ったくらいである。
フルートの低音域を太く豊かな音で吹くというのは実は非常に難しいのだ。

B面1曲目"Right Down Step"は緊張感あふれるコード進行が印象的な急速調の曲。
日野さんのライドシンバルが緊張感にさらに拍車をかけ、松本さんのテナーが全音域を自在に駆け回る。
トリッキーなフレーズも飛び出し、「手に汗握る名演」と呼ぶに相応しい仕上がりになっている。

そして続く2曲目が本アルバムの目玉"My One And Only Love"。
あれこれ書いても仕方ない。
とにかく聴いてみて欲しい。
戦後日本ジャズ史における指折りの名演
であることに疑いの余地なし。

ちなみに、当ブログで既にご紹介した片山広明さんによる演奏と聴き比べると、
「同じスタンダードなのにこうも違うのか!?」
と感じられ、これまた楽しい。
<メンバー>
松本英彦(ts,fl)
市川秀雄(p)
井野信義(b)
日野元彦(ds)

2011年2月28日月曜日

宮間利之とニュー・ハード/"Take The A Train"

本日は名古屋出張の際にサボってレコード屋巡りをして手に入れた一枚。
最近熱心にTBMを集めているので、帰社予定を無視してとりあえず即買いした。
1975年、TBMが5日間ぶっ続けでジャズライブを行う"Live In 5 Days In Jazz"を主催したのだが、ニューハードのライブを録音したのが本作だ。

エリントンへのトリビュートとして演奏されているが、
標題曲"Aトレイン"はエリントン楽団の専属歌手であったベティ・ロシェのスキャットをホーンセクションで吹くというもの。

前衛的な挑戦もしていたニュー・ハードだけあって、アレンジは一味違う。
宮間さんご本人によれば、
「若いモダン・ジャズをめざすオーケストラがエリントンの曲をそのままやっても意味がないんです。漫画になっちゃうんです。」
とのこと(ライナーノーツより抜粋)。
そんな経緯で、このアレンジが生まれたのであろう。
どアタマのフォルテッシモが大迫力の名演。音量を大にして聴いていただきたい。
しかしまあ、TBMのレコードに共通したことだが、とにかく音がいい。
ビッグバンドものであれば、突き刺さるようなトランペットセクションや、アルトのビロードようなビブラートが、ライブの臨場感そのままに聴くことができる。
素晴らしい内容の本作だが、けしからんことにCD化されていない。
レコード自体は中古市場で入手可能なので、見つけたら即買いをおすすめする。
ちなみに、本バージョンのAトレインはコチラのCDでスタジオ録音版を聴くことができる!
これも要チェックの一枚だ。

2011年2月19日土曜日

今田勝/”ナウ!”(サックス:三森一郎)

ついつい更新が滞ってしまった…。

前回はスリー・ブラインド・マイスについて書いたので、今回は早速TBMの名盤を紹介したいと思う。


←70年代らしい挑発的なジャケットが印象的だ。












1970年録音。

新宿ピットインの2階に「ニュージャズ・ホール」が作られたのが69年であるから、まさに新しい「日本のジャズ」が毎晩生み出される、凄まじい時代だったはずだ。
本作のタイトルはそのものズバリ、『ナウ』(”Now”)。
まさに今、独自の新しい音楽が作られている、という意味からつけたのかもしれない。
「状況劇場」とネーミングの発想が似ている気もする。

メンバーは
今田勝 (P)
三森一郎 (Ts,Ss)
水橋孝 (Ba)
小津昌彦 (Ds)
※敬称略

当時は若手だったのだろうが、今から見るととんでもないメンバーだ。
全曲今田勝さんのオリジナル曲で占められているが、戦闘的なフリー・ジャズというよりも、

リラックスして聴ける好演
という印象が強い(とはいっても前衛的ではあるのでそこらへんは心配無用)。

A面1曲目『ノスタルジア』はどことなく哀愁漂うメロディーが美しいバラード。
三森一郎さんのテナーは、輪郭のはっきりした美しい、しかしちょっとささくれたようなサウンド。
もろに後期コルトレーンの影響が感じられる。高音域はテナーというよりも、太い音のソプラノサックスのようさえ聴こえるときがある。

B面の1曲目モーダルなナンバー『ゲーヒ・ドリアン』も好きだ。
モードのこういう曲演りてえ!と思わせる印象的なテーマ。
ちなみに「ゲーヒ」というのは「ヒゲ」の逆さ読みで、昔グループで一緒だったベーシストの吉沢元治さんがヒゲを生やしていたため、曲名に使ったとのこと笑。

全曲外れなし、日本ジャズらしさを存分に実感できる超名盤だ。

関連記事
スリー・ブラインド・マイス・レコード
フリージャズ大祭 "インスピレーション&パワー14"

2011年2月13日日曜日

スリー・ブラインド・マイス・レコード

久々に日本ジャズを紹介したいなと思ったが、その前に、私の大好きなあるマイナーレーベル

スリー・ブラインド・マイス
 (Three Blind Mice、以下TBM)について書いておきたい。



このTBMは、熱狂的ジャズファンの藤井武先生が「日本のブルーノート」を目指して1970年に設立された。

私はTBMが設立された時代には生まれてもおらず、というか精子にすらなっていなかったわけで、「このレーベルは云々」と偉そうなことを言える立場には当然ない。
が、レコードから飛び出す音はとても魅力的で、何か書かずにはおれないのである。

話が脱線してしまった。
TBMは日本人ジャズミュージシャンを専門に扱い、発表の場がなかなか与えられない新進気鋭の若手にも録音の機会を与えるレーベルで、マイナーレーベルとしては異例の154タイトルを世に送り出した。

※ちなみに、”Three Blind Mice”(3匹のめくらねずみ)というのはマザーグースに登場する歌である。
農家のおばさんが包丁を持って3匹の盲目のねずみを追い掛け回して切り刻むという、すさまじくサイコな歌だが、宗教的マイノリティー(おそらく清教徒のことと思われる)への迫害を歌ったものらしい。
もしそうであるならば、旧世界の価値観とは違う新しいものを作るという意味で、マイナーなジャズを記録し紹介するレーベル名として相応しいと考えたのかもしれない。


峰厚介今田勝、大友義雄、土岐英史、山本剛、辛島文雄、宮間利之とニューハード、鈴木勲、金井英人、高柳昌行、松本英彦、東京ユニオン…(順不同、敬称略)。

今から見ると、とんでもない面子ばかりだが、当時はまだ無名のミュージシャンもいて、藤井さんは自らライブハウスに足を運び、これはというプレイヤーを発掘していたという。


日本ジャズが大きく動いた時代に録音されたため前衛的な内容のものが多く、中古屋で見つけるたびに「どんな音がするのかな。」と、ワクワクした。

日本ジャズの躍進に多大な影響を与えたTBMだったが、時代の波には逆らえなかったのか、2006年に倒産してしまった。
残念極まる。

我々のようなジャズファンにとっては大変ありがたいレーベルだったが、日本ジャズというマイナーなジャンルの、それも先鋭的なアーティストを多く取り上げていたのであるから、こう言っては大変失礼だが、なかなか売れなかったことと思う。


←レコードにはブックレットもついていた。
中古屋で買ってこれが入っていると、何やら得した気分になる。










2007年にソニーミュージックから人気の25タイトルが高音質CDで限定再販された(何枚出されたのかわからないが、今はほとんど売れ切れになっている)。

レコード業界の弱肉強食っぷりが垣間見える気がする。


そんな経緯で、TBMのレコードやCDは中古市場以外では手に入らなくなってしまった。
TBMをネットや中古CDショップで見つけた貴方(貴女)!

逡巡することなく買うことをオススメします!

関連記事
今田勝/”ナウ!”(サックス:三森一郎)
宮間利之とニュー・ハード/"Take The A Train"
松本英彦さん/"Sleepy"
峰厚介クインテット/"ミネ"
太田邦夫クインテット/"My Back Pages 俺たちの青春"
追悼 金井英人/アランフェス協奏曲

2011年2月5日土曜日

レオ・パーカー/"Back To Back Baritones"

前2回は、洗練された音のプレイヤーをご紹介したが、その反動なのか、ゴツゴツした無骨なバリトンサックスを聴きたくなる。

これは性としか言いようがない。


というわけで、今回はレオ・パーカーである。






古いモノラル録音で、1940年代後期のものと思うがよくわからん。

メルヴィン・ギルとの2バリトンらしいのだが、そもそもこのメルヴィン・ギル(Sax Gill)があまりにマイナーすぎて何者なのかまったくわからん。


まあ細かいことは置いといて、とにかく聴けばよい。
まったくやる気のないジャケットではあるが、
1曲目から特徴的な極太の音を満喫できる。現代的な、いわゆる「ドンシャリ系」とはまったく違う昔の楽器の音。
ブリブリ吹くだけでなく、奏法の基本がサブトーンになっているとわかる2曲目。

思わずヨダレが出てしまう。

バリトンサックスが好きな方には特にオススメしたい一枚だ。

2011年2月1日火曜日

ハーブ・ゲラー/”The Gellers”

前回はクールジャズ・テナーの代表格スタン・ゲッツをご紹介したが、クールから派生したウエストコースト・ジャズというのがある。

私はウエストコーストの中でも特にアルトがあまり好きではない。
熱気あふれるバップとは対極にあるスタイルなのでしょうがないんだが、楽器がフルに鳴っていないように聴こえてしまい、どうにも消化不良な感が否めない。
そんな中、オープンで明るい音を出すアルトがハーブ・ゲラーである。

ジャケットの写真で見る限り、マウスピースはブリルハートのトナリンのようだが、こんな鋭くクリアな音が出せるのか。
息のスピードを早くした吹き方なのだろうが、力んでいるようにはまったく聴こえない。

フレーズでいうと、この人のアルトは圧倒的に正確だ。
いかに速いテンポの曲であろうと、指が転ぶことがない。吹き流すということを決してしない。
よく言えば正確、悪く言えば神経質なわけだ。
“Geller”という苗字からするとドイツ系だろうか。もしそうなら神経質な演奏というのもある程度理解できるような気がする。

本作は愛妻ロレイン・ゲラー(p)との競演でも有名であり、無伴奏ピアノソロの曲も収録されている。
夫への愛情がこめられているような素晴らしいソロだ。
しかしロレインはこの録音の3年後、白血病で亡くなってしまう。
最愛の妻を失ったハーブは活力を失い、カムバックに長い時間を要することになる。


本作はゲラー夫妻が最も充実していたころの演奏といえるだろう。

2011年1月30日日曜日

スタン・ゲッツ最後のステージ/”People Time”

前回書いた高瀬アキの”Blue Monk”が録音されたのは1991年だが、同年にジャズテナーの巨匠最後の演奏が吹き込まれていた。




スタン・ゲッツである。






本作は1991年3月、ゲッツが癌で亡くなるちょうど3ヶ月前に録音されたライブ盤である。
ケニー・バロンのピアノとデュオで、全曲スタンダード。
理論的に難しいことは何もやっていないが、二人のソロは実にメロディアスだ。バロンの透き通ったピアノがとても心地よい。
テナー、ピアノともにアドリブの練習素材としても最適といえる。
だが、そんな話はここでは重要ではない。
本作において何よりも聴くべきは、ゲッツの音の凄まじさである

2011年1月25日火曜日

高瀬アキwithデヴィッド・マレイ/”Blue Monk”

前回ハミエット・ブルーイットについて書いたあと、同じロフトジャズ仲間のデヴィッド・マレイ(David Murray)を無性に聴きたくなって久しぶりに取り出したのがコレ。


ヨーロッパを中心に活動するピアニスト高瀬アキさんとのデュオという、少々珍しい編成だ。
マレイはテナーとバスクラリネットを吹く。

マレイは70年代ニューヨークのロフトジャズ・ムーヴメントで頭角を現したテナー奏者だ。
リーダーアルバムがやたらと多く、ワンホーンカルテットからビッグバンド、変なファンクまで守備範囲は広い。


「アルバート・アイラーを踏襲したスリリングなプレイ」(?)
などという、わかったようなわからないような謳い文句で日本でも紹介され話題となった。


たしかにアイラーのようなフリーフォームの奏法を多用するが、基本的スタイルは戦闘的な前衛ではなく、むしろコールマン・ホーキンスに根ざした新鋭正統派という印象が強い。


音はとにかく極太。

鉄芯が入ったようかんのような重さがあり、
(我ながらいい例えだなァ)
コシもある。

これにはベルグラーセンのマウスピースも一役買っていると思われる。

※ラーセンのマウスピースについてはまたの機会に。

2011年1月21日金曜日

ブルーイット・バリトンネイション/”Libation For The Baritone Saxophone Nation”

私がもっとも敬愛するバリトン奏者ハミエット・ブルーイット先生。



バリトンのワンホーン・カルテットでは飽足らず、バリトン4本+ドラムという
とてつもなくアホ
最高に刺激的なグループまで作ってしまった。

何故にこういうおもしろいことを思いつくのか。

2011年1月16日日曜日

コーン6Mのネック(アルトサックス)

ヴィンテージサックスが好きな方はよくご存知のことと思うが、コーン(C.G.CONN)製アルトのネックには『マイクロチューニングデバイス』なる物がついている(ないものもある)。

これは、ネックについているダイヤルを回してネック自体を伸縮させてチューニングするという、驚くべきシステムであった。
(結局この機構を使ったのはコーンだけだったが)



本題はここから。
これまでは、せっかくチューニングデバイスが付いているのに、マウスピースの抜き差しで対応していたが、ふと思い立って
目いっぱいマウスピースを突っ込んだ状態でデバイスをくるくる回してチューニングし、吹いてみた。

2011年1月13日木曜日

フィル・ウッズとジーン・クイル/Phil Talks With Quill

前回はテナーバトルについて書かせていただいたが、アルトのバトルモノでも負けず劣らず熱い演奏がある。


1957年録音。

バップの有名曲をアルト2本でこれでかとばかりに吹くわけだが、このころの二人は音が似通っているので、フレーズの手癖などをよく聴かないと、どっちがどっちだか
正直よくわからん。